国産ルリクワガタの分類

 2009年現在、国産のルリクワガタ属は10種に分類されている。



  ルリクワガタ        コルリクワガタ      ホソツヤルリクワガタ
(上段:♂、下段:♀) 



ユキグニコルリクワガタ     トウカイコルリクワガタ      ニシコルリクワガタ
(上段:♂、下段:♀) 



    ニセコルリクワガタ     キイニセコルリクワガタ  キュウシュウニセコルリクワガタ
(上段:♂、下段:♀) 



タカネルリクワガタ 
(左:♂、右:♀) 


学名 和名 亜種    学名 分布
Platycerus delicatulus
Lewis,1883
ルリクワガタ
(オオルリクワガタ)
ルリクワガタ
(オオルリクワガタ)
Platycerus delicatulus delicatulus Lewis,1883 本州・四国・
九州(除:ウンゼンルリ生息地)
ウンゼンルリクワガタ
(ウンゼンオオルリクワガタ)
Platycerus delicatulus unzendakensis Fujita et Ichikawa,1982 九州(雲仙岳、多良岳)
Platycerus acuticollis Kurosawa,1969 コルリクワガタ
(ホンコルリクワガタ)
Platycerus acuticollis Kurosawa,1969 宮城・福島・茨城・栃木・群馬・神奈川・山梨
Platycerus albisomni
Kubota,2008
ユキグニコルリクワガタ
(ユキグニルリクワガタ)
ユキグニコルリクワガタ Platycerus albisomni albisomni Kubota,2008 秋田・(岩手・宮城)・山形・福島・新潟・群馬・長野
チチブコルリクワガタ Platycerus albisomni chichibuensis Kubota,2008 群馬・埼玉・長野
Platycerus takakuwai
Fujita,1987
トウカイコルリクワガタ
(トウカイルリクワガタ)
トウカイコルリクワガタ Platycerus takakuwai takakuwai Fujita,1987 埼玉・東京・神奈川・静岡・山梨・長野・岐阜・愛知
キンキコルリクワガタ Platycerus takakuwai akitai Fujita,1987 富山・岐阜・石川・福井・三重・滋賀・奈良・和歌山・大阪・京都・兵庫・香川・徳島・愛媛
シコクコルリクワガタ Platycerus takakuwai namedai Fujita,1987 徳島
Platycerus viridicuprus
Kubota,2008
ニシコルリクワガタ
(ニシルリクワガタ)
ニシコルリクワガタ Platycerus viridicuprus viridicuprus Kubota,2008 京都・兵庫・岡山・鳥取・広島・島根・山口
キュウシュウ
コルリクワガタ
Platycerus viridicuprus kanadai Kubota,2008 福岡・大分
Platycerus kawadai
Fujita et Ichikawa,1982
ホソツヤルリクワガタ 栃木・群馬・長野・埼玉・東京・山梨・神奈川・静岡
Platycerus sugitai
Okuda et Fujita,1987
ニセコルリクワガタ
(シコクルリクワガタ)
四国
Platycerus akitaorum
Imura,2007
キイニセコルリクワガタ
(キイルリクワガタ)
紀伊半島
Platycerus urushiyamai
Imura,2007
キュウシュウ
ニセコルリクワガタ

(キュウシュウルリクワガタ)
九州
Platycerus sue
Imura,2007
タカネルリクワガタ
(タカネコルリクワガタ)
四国

国産ルリクワガタ属の分類の歴史
 1883年、英国の昆虫研究家George Lewis氏は、熊本県大矢山、奈良県大台ケ原、長野県木曽御岳、栃木県日光中禅寺湖で採集した25♂20♀を元にルリクワガタ(Platycerus delicatuus)を記載した。1)

 そして86年後の1969年、黒澤氏らが大英博物館に保管されているこれらの標本を検した結果、ルリクワガタだけではなく別のルリクワガタの仲間が含まれていることを発見し、コルリクワガタ(Platycerus acuticollis)の記載に至った。2)
 この大英博物館に保管されているLewis氏採集の7♂11♀の標本については、井村氏によって詳しく解説されている3)

 1982年、藤田氏らは、山梨県大菩薩産のコルリクワガタの中に、光沢の異なる個体が混ざっていることに気付き、新種ホソツヤルリクワガタ(Platycerus kawadai)を記載すると共に、長崎県雲仙岳で産するルリクワガタに他の産地には見られない特徴があることを確認し、新亜種ウンゼンルリクワガタ(Platycerus delicatulus unzendakensis)を記載した。4)

 1987年、奥田氏らがコルリクワガタによく似ているものの、明瞭に区別出来る別種が居ることを確認し、徳島県剣山を基産地として、新種ニセコルリクワガタ(Platycerus sugitai)を記載した5)。 

 更に1987年、藤田氏らは日本各地の多数のコルリクワガタ標本を検して、亜種としてトウカイコルリクワガタPlatycerus acuticollis takakuwai)、キンキコルリクワガタPlatycerus acuticollis akitai )、ミナミコルリクワガタPlatycerus acuticollis namedai)を記載した。6)

 2007年、井村氏はルリクワガタ属の交接器内袋の形状を比較するという新しい手法により、新種タカネルリクワガタ(Platycerus sue)を記載する共に、ニセコルリクワガタをシコクルリクワガタ(Platycerus sugitai)、キイルリクワガタ(Platycerus akitaorum)、キュウシュウルリクワガタ(Platycerus urushiyamai)の3種に分類した。7),8)

 2008年、久保田氏らによって従来コルリクワガタ(1種4亜種)とされていたグループが、井村氏と同様の交接器内袋の形状の比較により、コルリクワガタ(Platycerus acuticollis)、ユキグニコルリクワガタ(Platycerus albisomni)、トウカイコルリクワガタ(Platycerus takakuwai)、ニシコルリクワガタ(Platycerus viridicuprus)の4種に分類されると発表された。9)
 これにより、日本のルリクワガタ属は10種とになった。

 2010年、井村氏はコルリクワガタ(Platycerus acuticollis)をホンコルリクワガタ、ユキグニコルリクワガタをユキグニルリクワガタ、トウカイコルリクワガタをトウカイルリクワガタ、ニシコルリクワガタをニシルリクワガタとした。10)
 和名に関する混乱は続きそうな状況となっている。

 2010年、藤田氏は世界のクワガタムシ大図鑑を刊行し、国産のルリクワガタ属については2007年以前の分類を採用した。11)
 主に♂交接器内袋の違いによって提唱された2007年の井村氏によるニセコルリクワガタの新分類7)、2008年の久保田氏によるコルリクワガタの新分類9)については、ニセコルリクワガタの交雑実験でF1(あるいはF2以降)が認められている例を挙げ、今後の交配実験の結果を見て、近年刊行を計画している日本産クワガタムシ大図鑑で結論を出したいとした。

 2011年、久保田氏らによって日本産ルリクワガタ属の分化過程を遺伝子解析によって推定した報告が行われた。12)
 COT遺伝子による分岐年代の推定によると、日本産ルリクワガタ属は、およそ246万年前に朝鮮半島のルリクワガタ属から分化し、
およそ169万年前にCladeT、CladeUという2つのグループに分かれたとした。CladeTとCladeUは、その後、
  CladeT:ユキグニコルリクワガタコルリクワガタトウカイコルリクワガタ(原名亜種)タカネルリクワガタニシコルリクワガタ
  CladeU:キュウシュウニセコルリクワガタホソツヤルリクワガタルリクワガタトウカイコルリクワガタ(近畿亜種)ニセコルリクワガタ
        トウカイコルリクワガタ(四国亜種)キイニセコルリクワガタ
へと分化し、現在の体系になっているとしている。遺伝的多様化は、東日本よりも西日本でより顕著になっているとのことである。

1)Lewis, G., 1883. Trans. ent. Soc. Lond. 333-341
2)Kurosawa, Y., 1969. Bull natn. Sci. Mus., Tokyo 12: 475-485
3)井村有希, 2008. 月間むし(450):44-53
4)Fujita, H. et al., 1982. Elytra 10(1): 1-8
5)
奥田則雄, 藤田宏, 高桑正敏, 1987. 月間むし (192) 3-11
6)
藤田宏 , 1987. 月間むし (197) 3-71)Y. Imura, 2007. Elytra 35(2) 471-489
7)Y. Imura, 2007. Elytra 35(2) 471-489
8)Y. Imura, 2007. Elytra 35(2) 490-496
9)Kohei Kubota et al., 2008. Biogeography 10: 79-102
10)井村有希, 2010. 東アジアのルリクワガタ属 158-189. 昆虫文献六本脚
11)藤田宏, 2010. 世界のクワガタムシ大図鑑. むし社
12)Kohei Kubota et.al, 2011. Entomological Science 14: 411-427


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