タカネルリクワガタ
学名:Platycerus sue Imura,2007
分布:四国山地

1.記載からの主な流れ
 2007年11月、井村有希氏によって「邦産の隠蔽種」以外ではおよそ20年振りとなるルリクワガタ属の新種として記載された1)
 採集者の殺到と乱獲による生息地の環境破壊を懸念し、保全対策に対する目処が立つまで生息地は非公表という異例の新種記載となった。

 2008.3.24 環境省により「絶滅のおそれのある野生動植物の保存に関する法律」に基づく「緊急指定種」に指定・公示され、これにより平成20年3月26日から平成23年3月25日までの間、タカネルリクワガタは採集や譲渡が禁止された。違反した場合には、一年以下の懲役または100万円以下の罰金が課せられることとなった。

 2008年5月、井村有希氏らによってタカネルリクワガタの生息地が四国山地の高所の一部と公表された。2),3)

 2009年4月、井村有希氏より、現地で目立ったトラブルが起きたという報告がないとした上で、タカネルリクワガタの生息地、生息環境、生態などについて、より詳しい公表がなされた。4)

 2009年8月、久保田耕平氏らは、ルリクワガタ属の32の形質について比較を行い、タカネルリクワガタはニセコルリクワガタ種群に近縁であるとした。5),6)

 2010年3月、井村有希氏により、タカネルリクワガタの生態画像が多数公表されると共に、その生息の北限地が明らかにされた。7)

 2010年12月、久保田耕平氏らによって、タカネルリクワガタのより詳しい棲息地が明らかにされ、各棲息地の遺伝子解析をした結果、一部を除き、遺伝的多様性は低いものではないとされた。8) 同時に、タカネルリクワガタの飛来樹種に関する新しい知見が報告された。9)

 2011年3月、環境省よりタカネルリクワガタの「国内希少野生動植物種」への指定は見送るとの発表がなされた。理由は以下の通りである。
  ・生態的特性が近いコルリクワガタ(普通種)と比較しても生息密度は高い。
  ・主たる生息地は急峻な斜面であり、人工構造物の設置や捕獲等は物理的に困難である。
  ・生息地の一部が国定公園や森林生態系保護地域などにより保全されている。

 2011年、久保田耕平氏らは、核遺伝子解析の結果から、タカネルリクワガタはニセコルリクワガタ種群に近縁と考えるべきとした。一方で、ミトコンドリア遺伝子解析において、コルリクワガタ種群に近縁という結果となったことについて、ニシコルリクワガタからの遺伝子浸透を受けたことによるものと考えるのが自然とした。10),11)

2.外部形態
 井村氏によると、標高で棲み分けをするニセコルリクワガタとは次のような違いがあるとされる。
  @スマートなニセコルリクワガタに比べ、ずんぐりとした体形をしている。
  A♂の背面は、青藍色が強い。
  B上翅の点刻が粗い。

 実際に並べてみると、その違いは明らかである。

 
左:タカネルリクワガタ♂(愛媛県産)、右:ニセコルリクワガタ♂(徳島県産)

 
左:タカネルリクワガタ♀(愛媛県産)、右:ニセコルリクワガタ♀(徳島県産)

3.♂交尾器内袋
 ニセコルリクワガタ(シコクニセコルリクワガタ)とタカネルリクワガタの♂交尾器内袋の形状は、劇的に異なる。

 
左:タカネルリクワガタ♂、右:ニセコルリクワガタ♂(徳島県産)



1)Y. Imura, 2007. Elytra 35(2) 490-496
2)高桑正敏, 2008. 甲虫ニュース (162): 15-16
3)井村有希, 2008. 甲虫ニュース (162): 17-23
4)井村有希, 2009. 昆虫と自然 44(5) 6-9
5)K. Kubota. et al., Biogeography 11 57-72
6)久保田耕平、他, 月間むし(474) 8-14
7)井村有希, 2010. 東アジアのルリクワガタ属 158-189. 昆虫文献六本脚
8)久保田耕平、他 , 2010. 日本生物地理学会会報 65 151-158
9)久保田耕平、他 , 2010. 日本生物地理学会会報 65 189-191
10)K. Kubota. et al., 2011. Ent. Sci. 14 411-427
11)久保田耕平、他, 月間むし(498) 10-18


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