ルリクワガタ
(オオルリクワガタ)
学名:Platycerus delicatulus Lewis,1883
亜種:
 @原名亜種 Platycerus delicatulus delicatulus Lewis
 Aウンゼンルリクワガタ Platycerus delicatulus unzendakensis Fujita et Ichikawa


 ルリクワガタは、1883年にG.Lewis氏が、熊本県大矢山、奈良県大台ケ原、長野県木曽御岳、栃木県日光中禅寺湖で採集した25♂+20♀を元に記載された。1)
 当時は、ルリクワガタ属の生態(産卵マーク、発生時期、他)についてほとんど知られていなかったはずで、そのような中これだけの個体を採集していたことは驚愕である。
 
 長い間、和名は「ルリクワガタ」とされてきたが、2007年、井村氏によって「オオルリクワガタ」との改名が提唱された。2)
 一方で藤田氏は、この改名に異言を呈した3)
 2008年11月、日本鞘翅学会の「和名検討委員会」は討議の末、同委員会の第1号声明として、ルリクワガタ(オオルリクワガタ):Platycerus delicatulusは、和名を「ルリクワガタ」とすべし、との方針を示した。4)

 1982年、藤田氏らは、長崎県雲仙岳で産するルリクワガタに他の産地には見られない特徴があることを確認し、新亜種ウンゼンルリクワガタを記載した。5)
 ルリクワガタは青森県から宮崎県・鹿児島県まで分布しているが、この雲仙岳と長崎・佐賀県境の多良岳で産する個体のみがウンゼンルリクワガタとされている。


1. 変異
 コルリクワガタのような地域変異は少なく、個体変異が大きい。

 ♂は青味のかかった緑色の個体が多いが、産地によっては黄色の強い個体も混ざる。
 まれに、黒色や青味の強い個体も採れる。


 ♀の色彩変異はルリクワガタ属の中で最も著しい。
 銅色ベースでは、茶が基本であるが、紫〜赤味がかったもの、緑色の強いもの、などがある。


 また、銅色系とは全く別系統の黒色系の♀が高頻度に現れる。
 黒〜黒紫〜藍色〜青黒と変化する。
 この黒色系の♀の混ざる比率は地域によって異なっているようで、関東周辺では半分〜1/3近い確率の場所もある一方、九州では珍しいとのことである。

2. ウンゼンルリクワガタ(ウンゼンオオルリクワガタ)
 1982年に、体形が寸詰まり傾向、青味の強い個体が多い、などの理由で亜種として分類された。 一方で、九州の原名亜種の分布地域とされている場所でもそのような傾向の個体が混ざると言う。

 
左から、@原名ルリ(群馬県産)、A原名ルリ(大分県産)、ウンゼンルリ(長崎県産)

 ウンゼンルリの♀は、関東周辺のルリより、明らかに脚の黄色い傾向が強く、腹も赤色の現れる個体が多いようである。

  
 左から、@原名ルリ(福島県産)、A原名ルリ(大分県産)、ウンゼンルリ(長崎県産)
  

3. 形態
 国産ルリクワガタ属で最も大型になり、♂の大顎は大きく長い。


              ルリ♂                           ユキグニコルリ♂

 また、前胸後部の突起がないのが特徴である。


              ルリ♂                           ユキグニコルリ♂

4. 分布
 国産ルリクワガタ属の中では最も棲息範囲が広く、北は青森県下北半島、南は宮崎県南部〜鹿児島県北部まで記録がある。
 北海道南部で産卵マークを確認したとの噂もあるが、まだ公式には確認されていない。

 棲息標高は、関東近郊では標高1000m弱以上が基本となるが、日本海側や東北地方では標高500m以下でも棲息している地域がある。

5. 生態
 5月〜7月、コルリクワガタの仲間より少し遅れて発生すると言われている。
 一部地域のコルリクワガタの仲間のように、ブナ、ミズナラ、トネリコ等の新芽に集中して集まることはないが、近年、新芽への飛来例が複数報告されている。
  自身の採集記録:2008.05.24(1♀)

 産卵には、太い立ち枯れ、太い倒木の接地していない部分を好むが、ホソツヤルリクワガタが好むような数cm位の太さの材に産卵されることも珍しくはない。
 ルリクワガタ属特有の産卵マーク(・)を樹木の繊維方向に沿って刻む。  



  周辺の木々が完全に若葉の状態になった6月中旬以降、産卵材として好まれそうな立ち枯れや倒木を観察すると、ルリクワガタの成虫が付いていることがある。
 コルリクワガタのグループと同様、産卵中の♀だけでなく、♂も普通に採れることから、産卵材も♂と♀の重要な巡り合いの場所になっていると思われる。


立ち枯れに産卵マークを刻むルリクワガタ♀

 産卵・孵化後、亜終令または終令幼虫でその冬を越し、産卵の翌年か翌々年の晩夏〜初秋に蛹化、10日〜2週間程度で羽化に至り、そのまま蛹室で冬を越し、翌年の春に発生するのが、一般的なライフサイクルと思われる。

1)Lewis, G., 1883. Trans. ent. Soc. Lond. 333-341
2)Imura, Y., 2007. Elytra 35: 471-490
3)藤田 宏, 2008. 月間むし(450): 64-77
4)丸山 宗利, 2009. 月間むし(459):31-39
5)Fujita, H. et al., 1982. Elytra 10(1): 1-8

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