採集したルリクワガタ属幼虫の飼育


1.幼虫の持ち帰り
 ルリクワガタ属の採集をすると、成虫以上に多くの幼虫が採れてしまうケースが多くなります。
 幼虫は持ち帰らず現地に置いて来るという方も多いようですが、私は極力、産地毎、採集状況毎に区別して幼虫を持ち帰るようにしています。
 現在、最も重宝しているのが100均ショップで購入した釣り針用のケース。
 ウエストポーチに入るので、持ち運びも楽です。
 底部に張り付いている磁石を剥がしたものを使っています。
 1個で16頭の幼虫を持ち帰ることができます。


2.持ち帰った幼虫の飼育
 高山に棲息するルリクワガタ属の幼虫は暑さに弱いので、飼育にあたっては、夏場の温度管理が重要になります。
 特にニセコルリクワガタ幼虫は暑さ弱く、30℃を越えるとほぼ死滅すると言われています1)
 また、高温下で無事に羽化させることが出来ても、羽化してきた成虫は羽化不全の確率が上がる上、上翅の皺が多くなり、上翅や脚の色が黒ずんでしまうなどの問題も発生します2)

 私は夏場は、エアコンを使って23℃に設定した「クワ部屋」で幼虫の飼育を行っていますが、これでも限界を感じています。
 望ましくは、ワインセラーなどで18℃位の管理が必要かと思っています。
 あるいは高所の夏場の温度変化を考えると、毎日15℃〜25℃位の温度変化を与えるような飼育も必要なのか、と考え始めています。

2.1 材飼育
 
現地から持ち帰った材を使って材飼育を行うのはある意味理想かもしれません。
 場合によっては、マットを入れて、湿度の調整をした方が良いケースもあるようです。
 ただしこの材飼育、以下のような問題点もあります。

@雑虫が混入する
 ミミズ、ムカデなど、見ていて気持ち悪い生き物が入って来る可能性が高い上、コメツキ幼虫や寄生蜂が入った場合、ルリ属幼虫が全滅してしまう可能性もあります。

A幼虫の成長過程が見えない
 いつの間にか、材の入れてあるケースの中で成虫が羽脱するというケースが多くなってしまいます。一方で、材を割ってみたら蛹だらけということも…。
 採集時期、飼育環境で羽化する時期は変わるため、いつ成虫を取り出すのかが問題になりそうです。

 現在は、採集地毎に持ち帰ったルリ属幼虫が入った材を適当な大きさのプラケースに入れて保管してあります。
 保険の意味で、各産地の幼虫の一部は、次項のプリンカップ飼育もしています。


2.2 プリンカップ飼育
 現在は、60ccのプリンカップに粉砕マットを堅詰めして、そこに幼虫を1頭ずつ入れて飼育しています。
 もう少し大きなカップでも良いのかも知れませんが、管理出来るスペース、マット量から60ccとしています。
 以前、20ccのカップでの超省スペース飼育にチャレンジしてみましたが、羽化率が極端に悪化してしまいました。
 やはり、乾燥を考えると、60cc位での堅詰が必須になるのかと思っています。

 使用するマットは、以前は持ち帰り材をジューサーミキサーで粉砕したものを利用していました。
 2003年秋〜2004年春の採集個体では、60ccの飼育で羽化率90%以上を達成しましたが、マットの粉砕に使う労力は相当なもの…。
 現在は購入した無添加クヌギ粉砕マットを寝かせて発酵を進ませたものを利用しています。
 高所にはないクヌギですが、特に問題なく幼虫は食べてくれるようです。

 なお、プリンカップ内に材の破片を入れると、幼虫は好んで入り、そこで蛹室を作り、羽化に至るケースが多いようです。
 ただし、この場合、折角の蛹化→羽化の状況を観察することが出来なくなります。


管理状況(2005.12)


蛹化


羽化

2.3 プラケースでの多頭飼育
 適当な材をプラケースに入れ、マットに埋めて、持ち帰り幼虫を複数入れるというセットも組んでみましたが、幼虫の数を増やすと羽化率は極端に低下してしまいました。
 特に、2005年5月に苦しい登山の末、ゲットした15頭あまりのコルリ幼虫をこのセットにしたところ、羽化してきたのは1♂のみ、というのが一番の後悔になっています。
 やはり、前項のプリンカップ個別飼育が、幼虫に対する思いやりの飼育法でしょうか?

 ルリクワガタ属幼虫の多頭飼育に関して、ルリは互いの攻撃性が高く、コルリは低いという興味深い報告もあります3)

2.4 現地での材の保管
 夏場の自宅での高温下の飼育を避けるため、採集した幼虫材を採集地にまとめて埋め、秋に回収に行くという方もいらっしゃるようです。
 いつか実践してみたいものですが、新規ポイントを求めている身には難しいものがあります。

3.高温飼育による悪影響
 前述したように、ルリ属幼虫を高温下で飼育すると、成虫の形態に悪影響が出てきます。
 私は夏場は23℃設定の環境で、幼虫を飼育していますが、ニセコルリは目も当てられない状態、コルリやルリでも一目で幼虫羽化と判る個体が羽化して来ました。
 高温による悪影響としては、
 @小型化する。
 A上翅の皺が増えて艶がなくなり黒っぽくなる。
 B脚の黄色味がなくなり黒っぽくなる。
というのが挙げられます。

 ルリ属の地域変異や個体変異を考える場合、この幼虫採集羽化個体には充分注意する必要がありそうです。

 なお、野外でも明らかに幼虫時の高温による悪影響が出たと考えられる個体が採れることもあるようです。


奈良県産ニセコルリ(koruriさん採集)
左:成虫採集個体、右:幼虫採集羽化個体


山梨県産コルリ
左:成虫採集個体、右2頭:幼虫採集羽化個体

文献

 1)奥田 則雄、他(1987) 西南日本におけるルリクワガタ属の1新種,月間むし(192):4-11
 2)漆山 誠一、他(2004) 九州のルリクワガタ属(2),月間むし(403):2-10
 3)塚脇 智成(1997)  月間むし(316):71



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